秘密の地図を描こう
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顔見知りという理由でミゲルが艦内を案内してくる。
「と言うわけで、ここが談話室。とりあえず、ここまでがお前らの自由に行動していい範囲内だ」
頼むから、守ってくれよ? と彼は続けた。
「今のお前はザフトでも何でもないし、何よりも、オーブの代表にそれ以上けがをされては困るからな」
この言葉には苦笑しか出てこない。
「もう、あんな無茶はしない……多分な」
ここなら、カガリを連れて戦闘をするような羽目にはならないだろう。アスランはそう言い返す。
「ならいいが……」
信用していない、と言う表情で彼は言葉を口にした。
「しかし、お前……そのサングラス、似合ってないな、アスラ……」
「アレックス、だ」
ミゲルの言葉を制止するようにそう告げる。
「アレックス?」
「あぁ。今の俺はアレックス・ディノだ」
馬鹿馬鹿しいが、と小さな声で付け加えた。
「確かにな」
ミゲルは即座にこう言い返してくる。
「まぁ、お前の場合は仕方がないな。でも、間違えたら勘弁しろよ?」
呼び慣れている方に、と彼は続けた。
「それは……仕方がないな」
確かに、彼らであれば仕方がないか。アスランはそう判断をする。
「ともかく、だ」
不意にミゲルがそれまでと口調を変化させた。
「頼むから、艦内で不祥事だけは起こさないでくれ」
いいな、と彼は言う。
「わかっている」
自分達はあくまでも彼らの好意で保護してもらっているのだ。本来であれば、早々にプラントに戻されるべきなのだろう。
「いいな、カガリ」
小声で隣にいる彼女に確認する。
「仕方がないだろうな」
ため息混じりに彼女がそう言ったときだ。
「だから、何であんな奴らがのってんだよ!」
控え室から不意にいらだちを隠せないという声が響いてくる。
「オーブの代表なんて、ただの偽善者だろう! 英雄だなんて言われてっけど、自分が何をしでかしたのか、自覚してない馬鹿じゃん」
そんな奴なんて、放っておけばよかったのに……とその声の主は続けた。
「……シン、か」
全く、あいつは……とミゲルが眉根を寄せている。
「そこまでにしておけ」
別の――だが、どこかで聞き覚えがある――声が耳に届く。
「だって、そうだろう? あいつ、自分達が下した判断の結果、どれだけ多くの人間が苦労していると思っているんだ?」
それを自覚していないだろう、と彼は言う。
「第一、まえの戦いの時だって……もっと早く避難勧告を出してくれていれば、俺の家族は死なずに死んだんだ!」
この言葉に、カガリの表情がこわばる。
「あいつは、オーブからの移住者だ……何でも、オノゴロにすんでいたとか……」
ミゲルがそう教えてくれたとしても、カガリの表情が和らぐわけではない。
「ともかく、落ち着け、シン。相手は一国の代表だ」
「……それはわかっているけどな、レイ」
「ならば、それ以上の愚痴は部屋で言え。俺でいいなら、つきあってやるから」
それで満足をしろ、と彼は付け加える。
「せめて、あいつが自分達の罪を認識してくれているなら、妥協するけどな」
特に、オーブの理念とやらの裏に隠した全首脳陣の失策の結果をシンは言う。
だが、それがカガリの怒りに火をつけたらしい。
「あいつ……お父様達がどれだけ苦しんだか、何も知らないくせに!」
許せない、と彼女は呟く。
「カガリ!」
反射的にアスランは止めようとする。だが、それよりも早く、彼女は談話室へと足を踏み入れていた。